映像コンテンツ制作を外部委託する際の契約に関する留意点【基礎編】

1 はじめに

動画、番組その他の映像コンテンツの制作には専門的な知見が必要です。このような知見を有しない会社の場合はもちろん、放送局のように制作の知見を有する企業の場合であっても、制作のためのリソースの確保等の理由から、映像・番組制作を外部委託することがあります。以下では、このような映像コンテンツの制作を外部委託する際の契約(以下、「制作委託契約」といいます。)における主な条項と留意点のうち、基礎的なものについてご説明します。

なお、動画、番組制作の委託は、情報成果物作成委託として下請取引に該当し、下請法の適用を受ける場合もあります。また、最近では、「ビジネスと人権」の観点から、スタッフの労務環境に配慮する条項を設けることもあるようです。これらについては、「映像コンテンツ制作を外部委託する際の契約に関する留意点【応用編】」において検討したいと思います。

2 制作委託契約における主な条項と留意点

1)コンテンツの特定

委託の対象となるコンテンツを特定しなければなりません。一般的には、動画のタイトル、内容、尺、等により特定することが多いように思われます。監督や出演者等を記載する場合もあります。

2)制作委託

コンテンツの制作を委託する旨の条項です。制作委託は通常は準委任契約ではなく請負契約であると思われますが、そのことを明確にするためには、受託側がコンテンツの完成の義務を負っていることを明示することが考えられます。(3)の納入・仕事の完成に関する条項と同一の条文で定められることもあると思われます。

3)納入・仕事の完成

コンテンツの納入に関する条項です。納入の期日や方法について定めます。また、コンテンツ内容のチェック(検収)を実施する場合には(通常は実施するものと思われます。)、検収の期間や、合否の通知方法、不合格となった場合の対応(改修の義務やその納期等)についても定めます。

4)知的財産権

まず、知的財産権をどちらに帰属させるかを定めます。著作権法が定めるデフォルト・ルール上、委託側・受託側のどちらが映像の著作権を取得するかは、どちらが著作権法29条の「映画製作者」に該当するかによります。ここでは同条の解釈に深くは立ち入りませんが、どちらが「映画製作者」に該当するかは、具体的な事実関係によって左右されると考えられますので、どちらが著作権を取得するかもケースバイケースで異なる可能性があります。そうすると、例えば契約上では委託側に著作権を取得する旨を定める場合に、それが、委託者側が「映画製作者」であることにより法律上当然に著作権を取得することを意味するのか、受託者側が「映画製作者」であるが委託者側にこれを譲渡させることを意味するのかもケースバイケースとなってしまい、契約書にどのように記載すべきか迷いが生じます。

しかし、映像コンテンツ制作委託契約の当事者からすると、著作権法のデフォルト・ルールによるとどちらが著作権者となるかや、どのような理由で著作権が帰属することになるか(著作権法29条により著作権を取得するのか、相手方からの譲渡によって取得するのか)等には関心がなく、最終的に誰が著作権を保有することになるのかを記載する点こそが重要という場合がほとんどであると思います。そのためか、一般的には、著作権は委託者(又は受託者)に「帰属する」という、譲渡によるのかどうか明確でない、抽象的な文言が使用されることが多いと思われます(ただし、下請法が適用される場合は、このような無関心を貫徹することはできません。詳しくは応用編をご参照ください。)。

なお、譲渡であると解されるときに備えて、帰属の対象に「著作権法第27条及び第28条が定める権利を含む」ことが特掲されるのが通常であると思います。著作権法第61条第2項が「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と定めているためです。

また、委託者側に著作権を帰属させる場合には、受託者側が著作者人格権を行使してはならない旨の条項も定めておくべきでしょう。著作者人格権は譲渡できないため、著作権を譲渡させる契約においては、このような「著作者人格権不行使特約」を置くのが一般的です。

著作権を受託者側に帰属させるときは、委託者側は、受託者側からコンテンツの利用許諾を受ける必要があります。どの範囲で利用許諾を受けるべきかは、案件によってまちまちでしょう。放送、配信などの利用態様だけではなく、利用できる媒体などにより利用範囲が画されることも多いです。また、通常のライセンス契約と同様、利用できる地理的・時間的範囲が定められるのも一般的であると思われます。

5)権利処理の義務

映像作品にはその映像自体の著作権の他、その映像作品に含まれる別の著作物の著作権(音楽、脚本、セットや美術品、実演家の権利など)が存在するのが通常です。委託者としては、その契約において委託者が想定している利用ができるよう、受託者側に対し、これらの著作権の権利処理を義務づけます。ただし、JASRAC等が管理する音楽の著作物の著作権は蛇口処理(映像の配信や放送などを行う側が権利処理を行う場合のこと)が行われるので、権利処理義務の対象から除外されるのが一般的です。

6)対価について

映像コンテンツ制作においては、コンテンツの制作だけでなく、これに付随する義務(例えば権利処理業務を行うべき義務や、コンテンツの著作権の譲渡・ライセンスなど)が定められるのが通常です。

そのため、対価に関する条項においては、これらの付随する義務についての対価も含むことが明確になるよう、その対価は当該契約における受託者側の一切の義務履行の対価である旨を定めるのがよいでしょう。

7)クレジットについて

映像コンテンツに、委託者や受託者のクレジットをどのように表示するかが定められることがあります。特に留意すべき点として、「制作」や「製作」のクレジットをどちらに付すかという問題があります。

(4)記載のとおり、著作権法29条は、映像の著作物の著作権を取得する者を「映画製作者」としています。このことからすると、「映画製作者」こそが「製作」としてクレジットされるべきようにも思われます。しかし、映像制作現場には、著作権は制作費を拠出した方の会社が取得し、その会社が「製作者」(「ころもへんのセイサク」などと言われることがあります。)であるとの意識を有している方が多いように思います(「制作費を出しているのだから権利はこちらですよね。」とか、「お金を出したのだからこちらがころもへんのセイサクだよね。」などの発言は、会社を問わず何度も聞いたことがあります。)。

「映画製作者」の解釈においては、制作費を拠出したからといって「映画製作者」に該当するとは必ずしも限りません。そのため、このような制作現場の考え方は、必ずしも著作権法上の「映画製作者」の考え方とは合致しません。しかし、コンテンツ制作のためのリスクマネーを投下した側がコンテンツの利用を自由に行ってリターンを得るべきとの考え方は極めて合理的であり、むしろ著作権法上の考え方よりも正しいのではないかとも思われます。

いずれにしても、どのような場合に「制作」や「製作」を用いるべきかは法律により定まるものではありませんし、会社によっても考え方は様々なようです。著作権の所在と一致しなくても問題はありません。そのため、双方の認識の相違による紛争を防止する観点からも、委託者・受託者の協議によりクレジットの仕方を定めることは望ましいといえます。

3 まとめ

以上のとおり、映像コンテンツの制作委託契約における主な条項と留意点のうち、基礎的なものについて説明しました。制作されるコンテンツの性質や利用方法、委託者・受託者の考え方によって条項の在り方は多種多様ですので、コンテンツ制作委託契約を作成・締結する際には、コンテンツ法務について十分な知識経験を持った専門家にご相談されることをおすすめします。

Last Updated on 2024年4月23日 by rightplace-media

この記事の執筆者
大平 修司
ライトプレイス法律事務所

2010年12月弁護士登録。都内の事務所に勤務し、金融規制対応その他の企業法務や多くの訴訟・紛争対応に従事。
2016年4月に株式会社TBSテレビ入社。テレビ、インターネット配信、映画、スポーツ、eスポーツなど幅広いエンタテインメントについて、契約法務や訴訟・紛争対応や、インターネットビジネス、パーソナルデータの取扱いに関する業務等を担当。

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