フリーランス法とは?その概要について、コンテンツ制作業界の特性も踏まえて解説

はじめに

コンテンツ制作業界は、昔から、いわゆるフリーランスという働き方が多い業界です。制作に様々な専門性や職人技が必要であることがその一因かと思います。近年では、働き方の多様化に伴い、コンテンツ制作業界に限らず、フリーランスという働き方が大きく普及しました。フリーランスは組織に縛られず柔軟に働くことができますが、一方で、発注者に対する立場は一般的に弱く、報酬不払いや支払遅延、一方的な発注の取消し、ハラスメントなどの不利益を受けることも少なくありません。このような問題の背景には、一人の「個人」であるフリーランスと、「組織」である発注事業者との間に、交渉力や情報収集力 の格差が生じやすいことがあるといわれています。

そこで、このような問題の是正のため、2023年4月28日、いわゆる「フリーランス法」(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が成立しました。施工日は2024年11月1日です。

コンテンツ制作業界においては、既に下請法対応が大きな課題となっており、対応を進めている事業者も多いと思われます。そこで、以下では、下請法の規律と比較しつつ、フリーランス法の概要をご説明します。

独占禁止法、下請法との関係

従前から、弱い立場にある取引先の保護は、独占禁止法上の優越的地位の濫用に係る規律や、下請法により図られてきました。これらの法律は、フリーランス法と重畳的に適用される可能性があります。ただ、法執行において、公正取引委員会は、フリーランス法と独禁法又はフリーランス法と下請法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス法を優先して適用するとの見解を示しています(公取委「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」(2024))。

フリーランス法の適用の判断基準

フリーランス法は、保護されるフリーランスを定義した上で、発注者側を「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」の2つのカテゴリーに分類し、そのカテゴリー毎に異なる規律を適用しています。さらに、「特定業務委託事業者」については、取引の期間が長くなる場合には、より重い規律を課しています。下請法のように、資本金等の額による基準はありません。また、下請法のように、適用される業務の種類が一応定められていますが、その範囲は広く、フリーランスに対して委託する多くの業務にフリーランス法が適用されます。以下、詳述します。

(1)フリーランス法により保護を受けるフリーランスについて

フリーランス法は、保護すべきフリーランスを「特定受託事業者」とし、以下のように定義しています。

①業務委託を受ける個人であり、かつ、従業員がいない事業者

②業務委託を受ける法人であり、かつ、代表者以外の役員も従業員もいない事業者

要するに、個人であるか法人であるかを問わず、自分以外の役員や従業員がなく業務委託を受けている事業者が、フリーランス法によって保護されるフリーランスです。なお、フリーランス法はBtoBの取引にのみ適用されるため、消費者から業務委託を受ける場合には適用されません。

(2)フリーランス法の適用を受ける発注者について

フリーランス法は、業務委託をする事業者を、「業務委託事業者」、「特定業務委託事業者」に分類し、適用される規律を分けています。さらに、「特定業務委託事業者」が一定の期間(1ヶ月)以上の業務委託を行う場合には、禁止行為に係る規律などのより重い規律にも服します。これを整理すると、以下の表のようになります。

委託者のカテゴリー定義適用される規律
業務委託事業者特定受託事業者に業務委託をする事業者取引条件の明示(3条)
特定業務委託事業者業務委託事業者であって、①②のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
・取引条件の明示(3条)
・報酬の支払期日等(4条)
・募集情報の的確な表示(12条)
・ハラスメント対策(14条)
・解除等の30日以上前予告(16条)
特定業務委託事業者(1ヶ月以上の業務委託である場合)(特定業務委託事業者)と同じ。ただし、業務委託の期間が1ヶ月以上である場合。上記に加えて、
・禁止行為(受領拒絶、報酬減額、など。 5条)
特定業務委託事業者(6ヶ月以上の業務委託である場合)(特定業務委託事業者)と同じ。ただし、業務委託の期間が6ヶ月以上である場合。・妊娠、出産、育児、介護に対する配慮(13条)
・解除の予告(16条)

(3)フリーランス法の適用を受ける取引について

フリーランス法は「業務委託」に適用されます。フリーランス法における「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に対し、以下の行為を委託することをいいます。

・物品の製造(加工を含む。)(゠「製造委託」)

・情報成果物の作成(゠「情報成果物作成委託」)

・役務の提供(゠「役務提供委託」)

下請法との主な相違点は次のとおりです。

まず、下請法は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」を対象としていますが、フリーランス法には、「修理委託」は法文上定められていません。ただし、公取委・中企庁゠厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法) Q&A」問2−3によると、修理委託は役務提供委託に含まれますので、実質的には下請法との相違はないことになります。ただし、次の点においては相違しています。すなわち、下請法は、各種の取引についてさらに行為類型を定め、これらの行為類型に該当するもののみを法の適用対象としていますが、フリーランス法にはこのような行為類型は設けられていないため、「製造委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」に該当すれば規制対象となります。特に、役務提供委託については、下請法の場合は下請構造(委託者が他の事業者から委託を受けた業務をさらに別の業者(下請事業者)に委託するような構造)がある場合のみを規律の対象とし、委託者が自ら利用する役務(自家利用の役務)の委託については規制対象外としているのですが、フリーランス法においては自家利用の場合も規律の対象としている点には注意が必要です。

例えば、映像制作業界においては、自家利用のコンテンツの制作を委託する場合、下請法対応を検討する上で、その委託が情報成果物作成委託であるのか役務提供委託であるのかは重要となります。役務提供委託であると整理できれば、下請法の適用対象外ということになるからです。しかし、フリーランス法の場合はこのような区別はされません。フリーランスに業務委託をする場合は、基本的にはフリーランス法の適用があるものと考えておくべきでしょう。

フリーランスに業務委託する事業者の義務

2でみた要件を満たす業務委託をする場合、委託する側には、そのカテゴリーに応じて一定の規律がかかります。2(2)に記載したものの再掲ですが、次のとおりです。

委託者のカテゴリー定義適用される規律
業務委託事業者特定受託事業者に業務委託をする事業者取引条件の明示(3条)
特定業務委託事業者業務委託事業者であって、①②のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
・取引条件の明示(3条)
・報酬の支払期日等(4条)
・募集情報の的確な表示(12条)
・ハラスメント対策(14条)
・解除等の30日以上前予告(16条)
特定業務委託事業者(1ヶ月以上の業務委託である場合)(特定業務委託事業者)と同じ。ただし、業務委託の期間が1ヶ月以上である場合。上記に加えて、
・禁止行為(受領拒絶、報酬減額、購入強制 など。 5条)
特定業務委託事業者(6ヶ月以上の業務委託である場合)(特定業務委託事業者)と同じ。ただし、業務委託の期間が6ヶ月以上である場合。・妊娠、出産、育児、介護に対する配慮(13条)
・解除の予告(16条)

以下、これらの規律の内容を簡単にご紹介します。

(1)取引条件の明示(3条)

業務委託事業者は、フリーランスに対し業務委託をした場合は、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならなりません。下請法における3条書面の交付と類似した規律です。本条により明示する必要のある事項は以下のとおりです。

①業務委託事業者及びフリーランスの商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
②業務委託をした日
③フリーランスの給付(提供される役務)の内容
④フリーランスの給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日等
⑤フリーランスの給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
⑥フリーランスの給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦報酬の額
⑧支払期日
⑨現金以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項

これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、当初の段階ではその明示をする必要はありませんが、未定事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。

フリーランス法においては、フリーランスの承諾がなくても、電磁的方法により給付内容等の明示をすることができます。下請法においては、電磁的方法により3条書面の交付を行うには下請事業者の事前承諾が必要なのと対照的です。

なお、下請法においては、一定の取引条件等を記載した書類(5条書類)の保存が義務づけられていますが、フリーランス法においては、このような書面の保存義務はありません。

(2)期日における報酬支払義務(4条)

特定業務委託事業者は、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めてそれまでに支払わなければなりません。当事者間で支払期日を定めなかった場合は、物品等を実際に受領した日が支払期日となります。また、物品等を受領した日から起算して60日を超えて支払期日を設定した場合は、 受領した日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日となります。

ただし、特定業務委託事業者が他の事業者(元委託者)から委託された業務をフリーランスに再委託する場合は、①再委託である旨、②元委託者の商号等、③元委託業務の対価の支払期日を明示することにより、再委託に係る報酬の支払期日を、 元委託の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができます。フリーランスに委託する事業者も資金力に乏しい可能性があることにかんがみて、元委託者からの支払期日の後にフリーランスに対する支払期日を設定することができるようにしたものです。なお、原則的な支払期日である受領日から60日目よりも元委託者の支払期日から30日目の方が先に経過する場合は、原則的な支払期日により支払期日を設定することもできます。

この支払期日の起算日に関し、コンテンツ制作業界において重要となる規律が下請法では置かれています。それは、情報成果物作成委託においては、情報成果物が委託内容の水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、親事業者が自己の支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で給付を受領したこととすることを合意している場合には、親事業者が当該情報成果物を自己の支配下に置いたとしても直ちに受領したものとはせず、自己の支配下に置いた日を支払期日の起算日とはしない、というものです。(ただし、3条書面に記載した納期において、当該情報成果物が親事業者の支配下にあれば、内容の確認が終了しているかどうかにかかわらず、当該納期に受領したものとして、支払期日の起算日となります。)(公取委・中企庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」45頁、(2023))

情報成果物作成委託においては、外形的には全く成果物の内容が分からないことから、支払期日を定める義務について定めた下請法第2条第2項の「検査をするかどうかを問わず」との文言にもかかわらず、特別に認められた取扱いです。映像コンテンツなど内容の確認に時間を要するコンテンツの場合は、このような合意をした上で支払期日を定めることもあるでしょう。

フリーランス法においても、下請法と同様の取扱いが認められていますので(公取委・厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」19-20頁(2024))、下請法において下請事業者との間で情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で給付を受領したものとするという合意するという対応をしていた事業者は、フリーランス法においてもその対応を踏襲することができるでしょう。

(3)募集情報の的確表示義務(12条)

特定業務委託事業者は、広告等によりフリーランスの募集を行うときは、その情報について、 虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、また、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。なお、当事者間の合意に基づき、広告等に記載した募集条件を変更することは、本規定に違反しません。

(4)育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)

特定業務委託事業者は、6か月以上の業務委託について、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならなりません。また、6か月未満の業務委託についても、フリーランスからの申出に応じて、必要な配慮をするよう努めなければなりません。

必要な配慮として実施すべきこととしては、例えば以下のようなものが挙げられます。

①配慮の申出内容等の把握
②配慮の内容又は取り得る選択肢の検討
③フリーランスに対する配慮の内容の伝達及び実施
④配慮不実施の場合の伝達・理由の説明

(5)ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)

特定業務委託事業者は、ハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう、相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません。また、 フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをしてはなりません。

(6)中途解除等の事前予告・理由開示義務(16条)

特定業務委託事業者は、6か月以上の期間行うフリーランスとの業務委託契約を中途解除したり、更新しない場合には、少なくとも30日前までにその旨を予告をしなければならなりません。また、予告の日から契約満了までの間に、フリーランスが契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は、これを開示しなければなりません。 

(7)禁止行為

フリーランス法は、特定業務委託事業者に対し、以下のような禁止事項を定めています。このような禁止行為は、下請法においても第4条に定めがありますが、フリーランス法のものとは若干内容が異なっています。

①受領拒否

フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒むこと

②報酬の減額

フリーランスの責めに帰すべき事由なく業務委託時に定めた報酬の額を減ずること

③返品

フリーランスの責めに帰すべき事由なく、給付を受領した後、その給付に係る物を引き取らせること

④買いたたき

フリーランスの給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること

⑤購入・利用強制

フリーランスの給付の内容を均質にし、又はその改善を 図るため必要がある場合その他正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること

⑥不当な経済上の利益の提供要請

自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、フリーランスの利益を不当に害すること

⑦不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

フリーランスの責めに帰すべき事由なく、給付の内容を変更させ、又は給付を受領した後若しくは役務の提供を受けた後に給付をやり直させることにより、フリーランスの利益を不当に害すること

フリーランス保護法まとめ

以上、フリーランス法の概要を見てきました。フリーランス法は実際の現場の取引と深く結びついた内容であるため、その対応のためには、実務への深い理解が不可欠です。コンテンツ制作業界においてフリーランス法対応を行う際は、コンテンツ制作実務に詳しい弁護士にぜひご依頼ください。

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Last Updated on 2024年10月17日 by rightplace-media

この記事の執筆者
大平 修司
ライトプレイス法律事務所

2010年12月弁護士登録。都内の事務所に勤務し、金融規制対応その他の企業法務や多くの訴訟・紛争対応に従事。
2016年4月に株式会社TBSテレビ入社。テレビ、インターネット配信、映画、スポーツ、eスポーツなど幅広いエンタテインメントについて、契約法務や訴訟・紛争対応や、インターネットビジネス、パーソナルデータの取扱いに関する業務等を担当。

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