放置しておくと思わぬトラブルに?著作権について弁護士に相談すべき3つの理由

著作権と無関係のビジネスはあまり多くありません。コンテンツを販売・提供するようなビジネスを行う場合はもちろんですが、そうでなくても、広告素材や社内資料などで著作物を利用していることが多いからです。よって、著作権に関するトラブルに巻き込まれてしまうリスクは誰にでもあります。

このようなトラブルに巻き込まれた場合には、著作権に詳しい弁護士に相談することがおすすめです。以下では、その理由を3つご紹介します。

 

1 著作権についてのトラブルを放置することによるリスクが大きいこと

著作権についてのトラブルには、大きく分けて、(1)自社の著作権が侵害されたケースと、(2)自社が他人の著作権を侵害してしまったケースの2つのケースがあります。そして、これらのいずれの場合も、放置することにより大きな損害が生じることがあります。

(1) 自社の著作権が侵害されたケースのリスク

著作権が侵害された状態を放置しておくと、金銭的な損害が発生する可能性があります。例えば、自社が制作した有料コンテンツを違法にコピーしたコンテンツの流通を放置した場合、自社が有料コンテンツから得られるはずであった利益を得られなくなる可能性があります。

 

具体的な例として、放送番組が動画共有サイトなどに違法アップロードされる例があります。

日本民間放送連盟は、このような違法動画による被害想定額として、総務省が480億円と推定した例があると発表したことがあります。また、最近では、映画を10分程度の短い尺にまとめたいわゆる「ファスト映画」を公開した2名が映画会社から損害賠償請求訴訟を提起され、裁判所が被告らに請求額5億円全額の賠償を命じた例がありました。

 

これらは著作権侵害を放置していたというよりも侵害される例が多すぎて全てに対応するのが難しかった例ですが、著作権侵害により大きな金銭的損害が発生する可能性があることを示すものであるといえます。

 

また、違法コンテンツが流通することで、自社のブランドや信用が毀損されることもあるでしょう。

さらに、自社のコンテンツに関する著作権侵害行為があるのを知りながら放置することによって、具体的な事案によってはそのような著作物の利用を黙示的に認めていた(黙示の許諾をしていた)と認定されてしまう可能性も否定できません。

(2) 自社が他人の著作権を侵害してしまったケース

自社が他人の著作権を侵害してしまった場合、(1)差止請求、(2)損害賠償請求、(3)名誉回復等の措置請求を受ける可能性があります。

 

①差止請求

他社の著作権を侵害した場合(侵害のおそれを生じさせた場合も)は、その侵害行為の停止又は予防を求められる可能性があります。よって、著作権侵害となるコンテンツを販売したりインターネット配信したりしていた場合は、その販売や配信ができなくなります。放送事業者がO.A.直前に差止請求を受けた場合は、放送そのものや素材の差替えに大きな労力がかかります。

また、差止請求に際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物などの廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求される可能性もあります。著作権侵害となるコンテンツを販売したりインターネット配信したりしていた場合は、販売している物の在庫の廃棄や、サーバー上に保存しているデータの削除等を求められることになります。

 

②損害賠償請求等

著作権を侵害された側には上に記載したような金銭的な損害が生じるので、不法行為に基づく賠償請求をされることがあります。事案によっては上のファスト映画の例のように、高額の賠償請求がなされる可能性もあります。

なお、不法行為に基づく損害賠償請求権は損害及び加害者を知った時から5年または不法行為の時から20年で消滅時効にかかりますが、この消滅時効期間が過ぎた場合でも、不当利得返還請求という別の法律構成により請求を受ける可能性があります。不当利得返還請求の時効は権利を行使することができることを知った時から5年または行使できる時から10年です。

 

③名誉回復等の措置の請求

故意又は過失により著作者人格権や実演家人格権を侵害してしまった場合には、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置の請求を受ける可能性があります。このような請求の具体例としては、訂正広告や謝罪広告等の請求が挙げられます。

このような措置を講じることになった場合、自社の信用が大きく毀損される可能性があります。

 

2 著作権侵害の判断が難しいこと

著作権侵害の判断には困難を伴うことが多いです。侵害か否かを判断するためには、例えば、①利用された部分が著作物に該当するか、②侵害したものとされたものとの間に類似性・同一性が認められるか、③依拠性が認められるか、④その著作権は存続しているか、⑤著作権法上の権利制限規定の適用はないか等が問題になります。

(1) 著作物該当性

著作権法では、「著作物」とは思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうと定められています。特に判断が難しいのが「創作性」の有無です。多くの裁判例や経験に照らして判断する必要性があるケースも多く、このような場合には専門家でなければ判断は困難でしょう。

(2) 類似性・同一性

侵害したものとされたものとの間の類似性・同一性も著作権侵害の要件です。どれくらい似ていれば著作権侵害になるのかというものであり、その判断が難しいことは想像に難くないと思います。

(3) 依拠性

依拠性も著作権侵害の要件です。依拠性は、(その内容には様々な考え方があるところですが)他人の著作物を認識しつつ自己の著作物において利用したような場合に認められます。

自己の著作物が侵害された場合に侵害者に対して責任追及するためには依拠性を立証する必要がありますが、相手方が認めなければ、類似性が小さい場合には特にその立証が困難であることも多いです。このような場合には、著作権実務に精通した専門家による対応が必要でしょう。

(4) 著作権の存続

著作権侵害が成立するためには、当然ですがその著作権が存続している必要があります。著作権の存続期間は原則として創作の時から著作者の死後70年を経過するまでの間ですが、その起算点は著作権の性質や種類によって異なることがあります。

また、著作権の存続期間は著作権の改正によって変遷しているため、著作物の創作の時期によって存続期間が異なることもあります。さらに、第二次世界大戦の間に連合国国民の著作権は日本で実質的に保護されていなかったことから、サンフランシスコ平和条約により、第二次世界大戦開戦前から連合国民有していた著作権については、一定の期間が加算されます。加算の期間は国によって異なりますが、長い場合には10年4ヶ月以上も加算される場合もあります。

このように、著作権の存続期間の算定は極めて難しく、特に古い著作物が問題となる場合に正しい判断をするためには、専門家の関与が不可欠でしょう。

(5) 権利制限規定

著作権法は、他人の著作物を利用しても、著作権が制限されることにより著作権侵害とならない場合を定めています。典型例としては「引用」や「時事の事件の報道のための利用」、「私的使用のための複製」、「付随対象著作物の利用」などが挙げられます。これらは著作権法により細かな要件が定められており、また、多くの解釈問題が含まれています。近年の法改正により内容が極めて複雑な権利制限規定も多く定められています。

このようなことから、専門家の関与なしに権利制限規定が適用されるか否かを判断することは極めて難しいといえます。

 

3 相手方に対する圧力

他社に著作権を侵害された場合には、差止めや損害賠償等の請求をしなければなりません。通常はいきなり訴訟をするのではなく、内容証明等により裁判外での請求を行います。また、著作権侵害の主張をされる場合も、裁判外での請求がくるのが通常です。侵害を否定する場合には、内容証明等の書面により反論することになります。

いずれの場合も、きちんと法律的に構成された内容で、弁護士名により請求又は反論をすることが、相手方に対する圧力になることがあります。そのような場合には、本人限りで対応するより成功率が高くなると考えられます。

 

4 まとめ

以上のように、著作権について弁護士に相談すべき3つの理由をご紹介しました。紛争対応は、序盤の動きによって結果に差が出る可能性もあります。そのため、著作権に関する紛争に巻き込まれた場合は、お早めに著作権に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

著作権について弁護士ができる3つのこと

著作権について弁護士に依頼できる事項は、著作権を侵害したりされた場合の紛争対応だけではありません。ここでは、著作権について弁護士ができることを、次の3つに整理して解説します。

 ①ビジネススキームの検討
 ②契約書の作成・チェック等
 ③訴訟・紛争対応

(1) ビジネススキームの検討

弁護士に依頼できることとしてまず挙げられるのは、ビジネススキームの検討です。

新たにビジネスを開始するにあたって、著作権に関していえば、例えば以下のような事項を検討します。

 

・そのビジネススキームは他人の著作物を利用することになるか
・利用することになるとして権利処理(著作権の譲渡を受けたり利用許諾を受けたりして、著作権を利用しても侵害とならないようにすること)が必要か
・権利処理が必要な場合はどのように行うべきか(個別の著作権譲渡契約又は利用許諾契約を締結するのか、権利者が定める利用規約で対応可能なのか等)
・ビジネススキームを変更することにより権利処理が不要とならないか
・そのビジネスについて、自社の著作権は発生するか
・自社の著作権が発生する場合、どのように保護するか。

 

事業部門における経験が豊富な方でも、法律面については思い込みがあることがあります。例えば、資金の出所と「製作(制作)著作」の表示及び著作権の帰属先は必ず一致するとか、データが当然に知的財産権の対象となるといった誤解にはしばしば出くわすことがあります。

一定の資金や労力を投じて新規ビジネスを開始する以上は、法律的な理由による失敗の可能性を低減させるためにも、事前に法的観点を踏まえたビジネススキームの検討をすることが極めて重要です。

(2) 契約書の作成・チェック等

①契約書の作成

1で述べたようにビジネススキームを検討すると、そのビジネススキームに必要な契約にどのようなものがあるかが定まりますので、ビジネスを契約書に落とし込む作業をすることになります。契約書作成の過程で、ビジネススキーム上決めておくべきであるのに決めることができていなかった点が見つかることもあり、その場合は再度ビジネススキームを検討することもあります。このように、ビジネススキームの検討と契約書の作成は密接に関連しており、契約書がビジネスの設計図のような役割を果たすことも多々あります。

一般に、契約書の役割としては紛争予防がフォーカスされることが多いので、紛争発生の可能性が低いことや契約書作成の時間的余裕がないことなどを理由に、契約書の作成が忌避されることもあります(放送業界では、昔ほどではないにしても、未だ口約束文化が残っていると認識しています。)。しかし、上記のように契約書はビジネスの設計図としての役割を果たすことがあり、作成の過程でビジネス上の要検討事項が発見されることがあるので、基本的には契約書を作成することをおすすめします。

ただし、かなり例外的にではありますが、あえて契約書を作成しない方がいい場合もあります(例えば、出演契約締結時に、口頭約束にすることで、ワンチャンス主義の適用を争点化させずに実現する場合など。)。このような場合には、リスクをご説明した上で契約書不作成の方針を取ることになります。

 

契約書のチェック

契約書のチェックは、こちら側は契約書は不要と考えている場合であっても相手方から契約書の作成を求められた場合には不可避的に生じます。

相手方から提示された契約書の草案は、当然ながら相手に有利な点が多く、それは契約書全体に散りばめられています。このような点を網羅的に見つけ出し、相手方に修正を求めるなどの適切な対応を行うためには、著作権その他の法律について深い知識と実務経験を有する弁護士への依頼が不可欠でしょう。

(3) 訴訟・紛争対応

著作権についての訴訟・紛争が発生した場合に、その対応を弁護士に一任することができます。

著作権を侵害してしまった場合でも侵害された場合でも、いきなり訴訟になることは通常なく、まずは手紙や内容証明による請求がなされ、裁判外の交渉から始まるのが通常です。そして、交渉で妥協点を見いだすことができない場合には、訴訟に移行します。

訴訟・紛争はこのような経過を辿ることが多いので、交渉の段階から訴訟を見据え、仮に訴訟になった場合であってもこちらに不利益になる証拠を出さないよう対応することが必要です。

また、訴訟になった場合は、著作権法と訴訟対応について知識経験を有する弁護士に依頼できるかどうかが重要になります。

 

以上、著作権について弁護士ができることを見てきました。著作権に関する紛争を予防したり紛争の拡大を防止したりするためには、著作権に関する豊富な知見を有する弁護士に、できるだけ早い段階から依頼することが重要です。

Last Updated on 2023年9月11日 by rightplace-media

この記事の執筆者
大平 修司
ライトプレイス法律事務所

2010年12月弁護士登録。都内の事務所に勤務し、金融規制対応その他の企業法務や多くの訴訟・紛争対応に従事。
2016年4月に株式会社TBSテレビ入社。テレビ、インターネット配信、映画、スポーツ、eスポーツなど幅広いエンタテインメントについて、契約法務や訴訟・紛争対応や、インターネットビジネス、パーソナルデータの取扱いに関する業務等を担当。

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